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2014.10.20更新

先日、中央大学商学部教授の酒井克彦先生の研修会に参加してきました。
その中で、札幌や大阪で発生した馬券訴訟についての話が非常に面白かったので、レジュメや先生のお話を参考に記事を書こうと思います。
そもそもなぜこんなことが問題になったのかを「所得税法」の面から考察するお話でした。

①事案概要

大阪の方は無申告であったため、刑事事件で、所得税法違反で起訴されたが、民事事件では雑所得が認められ実質勝訴。
これがH25年5月23日のことです。

一方札幌の方は雑所得として申告したが、税務署が一時所得に該当するとして更正処分にしました。
これを不服として札幌国税不服審判に申し立てしましたが、H24年6月27日に一時所得と裁決されました。
この納税者は東京地裁に提訴し、その判決に注目が集まっています。
税務関係の仕事をされている方や、競馬をされる方は既にご存知の話かと思います。

②争点

争点は競馬による所得が「一時所得」か「雑所得」か、です。
所得税の所得区分には給与所得や事業所得、不動産所得など10種類の分類が有ります。
分類過程を考えると、そのうち8つの所得に当てはまらず、一時所得にも当てはまらないものが雑所得となると考えられます。

③一時所得と雑所得

一時所得の金額は、「(その年中の総収入-直接要した金額)-特別控除額」
雑所得の金額は、「その年中の総収入-必要経費」

となっています。

ここでいう雑所得の必要経費とは、
「所得の総収入金額に係る売上原価その他直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」
となっています。
つまり、雑所得の場合、購入馬券はハズレ馬券を含め全て必要経費となると考えられますが、
一時所得の場合は「直接要した金額」ですから、当たり馬券の購入金額のみが経費
となるわけです。

④一時所得とは

所得税法34条1項には、
「一時所得とは利子~(略)譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、
労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう」
とあります。

②で述べたとおり、この一時所得に該当しない場合は雑所得となるわけですから、
今回の場合、どちらに該当するかの判断が非常に重要なのです。

札幌国税不服審判所は、1レースごとに独立した行為であるから、たとえ馬券を継続的に購入したとしても、
馬券を購入する行為から得られた所得は一時所得と判断
しました。
馬券を購入する行為は臨時的なもので、ただそれが連続して行われたにすぎない=継続的行為ではないと解釈したわけです。

ここで重要な事は、「所得源泉性の有無」であり、所得を得るための元になる原因があるものは雑所得であり、
ないものは一時所得であると、過去の判例で示されている
ことです。


⑤雑所得となった大阪のケース

大阪地裁は判決理由で、男性がインターネットを通じて多レース、他種類の馬券を継続的に購入して「個別のレースにおける当たり外れの偶然性の影響を抑えている」と指摘。
こうした買い方をしている場合の払戻金は「営利を目的とする継続的行為から生じた」として税法上の「雑所得」と認定しました。

つまり競馬の所得稼得の本質は「馬券購入行為」ではなく「競争順位の予測」であるとみたのです。
馬券購入行動自体は、所得稼得活動の最終段階であり、極端に言えば本人以外の者に購入を依頼しても良いような作業です。
このような所得稼得活動は、いわば投資家が株券を購入すること自体に能力を発揮するのではなく、
経済分析などを行うことと全く変わりがないのです。

男性は2005年~2009年、インターネットや予想ソフトを使って、35億1千万円の馬券を購入し、36億6千万円の払い戻しを受けました。
利益は1億5千万円なのにもかかわらず、国は所得税6億8千万円と無申告加算税1億3千万の計8億1千万円を課税しようとしたのだから呆れたものです。
結局税額は6,600万円となりました。

⑥通達と現実

国税庁は通達で、馬券の払戻金を、偶発的所得として一時所得としており、経費は収入に直接要した金額に限られる、としています。
ただ、この件で通達に書いてあることが全て正しい訳ではなく、「租税法律主義」に基づき、その通達が法源性があるかどうか、
条文で確認し又判例でも確認することが大切
と考えます。
今回のケースにおいては、競馬に対する知識を得ること、いうならば机上の理論ではなく、現場の知識の必要性を認識することが重要と感じます。

納税者の全人生を賭けて裁判と戦っているのですから、早急な判決が望まれます。
また、今回のような大口のケースではなく、一般の馬券購入者の場合はやはり通達通り一時所得となるわけですが、
そこの線引きについてなど、課題はまだまだあります。
この件に関しては、進展があり次第、また記事を書こうと思います。

投稿者: 入野みどり税理士事務所

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